NPO人にやさしい色づかいをすすめる会は、2019年度愛知県委託事業「カラーユニバーサルデザイン普及キャラバン隊事業」を実施いたしました。この実施報告は、愛知県福祉局障害福祉課へ提出したものです。
概要
事業名 | イベント名称カラーユニバーサルデザイン普及キャラバン隊事業 (「学校のカラーユニバーサルデザイン推進支援講座」全5回) |
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委託者 | 愛知県福祉局福祉部障害福祉課 | ||
実施講座 | 実施日 | 実施校および場所 | 参加人数 |
2019年10月21日(月)15:10~16:40 | 半田市立岩滑小学校 図書室 | 20名 | |
2019年10月30日(水)13:30~15:30 | 東栄町立東栄中学校 会議室 | 9名 | |
2019年11月23日(水)13:30~15:30 | 愛西市立草平小学校 視聴覚教室 | 18名 | |
2019年11月28日(木)15:00~16:30 | 豊田市立明和小学校 図書室 | 8名 | |
2019年12月17日(火)15:00~16:30 | 刈谷市教務主任自主研修会 刈谷市役所 7階702会議室 | 22名 | |
受講者 | 県内の小学校教員61名、中学校教員15名、特別支援学校教員1名の計77名(職区分の内訳は 一般教員70名、養護教諭3名、栄養教諭1名、管理職3名)。 | ||
講師 | 富永さかえ(豊田市立明和小学校のみ林羊歯代)。 講師の他に色弱当事者ら補助スタッフ2人を含め毎回3人で実施。 |
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目的 |
講座の流れ
講座は1時間30分から2時間、レクチャーと個人・グループワークを通して色覚の多様性およびCUDの考え方と手法を体験的に学べるプログラムとなっている。流れは以下の通り。 まず講師が概要を説明し(1)、色弱当事者が自らの視覚の特徴を具体的に語り(2)、次に受講者全員が眼鏡型の色弱模擬フィルタを着装して(色弱者の見え方で)色紙を分類したり、チョークによる板書やビブスの色の見分けにくさをチェックして改善案を考え、結果を皆で共有したりするワークを行う(3)。そして、すべてのひとに配慮した色づかい、すなわちCUDの必要性を十分に理解してもらったところで、講師がその実践事例と基本的な手法について、ワークと関連づけながら解説する(4)。 ※講座で使用したワークシートとアンケート用紙、および集計結果の詳細については添付資料を参照ください。 |
まとめ
本事業は、愛知県福祉局福祉部障害福祉課がNPO団体を対象に2019年6月に募集した企画提案型の「キャラバン隊派遣委託事業」であり、当会が応募した企画が採択され、実施に至りました。愛知県は、2018年に障害福祉課が中心となり、カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)監修の下、視覚情報を正しく伝えるための指針として、「視覚情報のユニバーサルデザインガイドブック」を作成しています(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/shogai/3456.html)。今回のキャラバン隊事業は、このガイドブック発行を機に障害福祉課がCUDの普及・推進を目的として行う事業の一環として実施されました。以下に、講座終了後に行ったアンケートから読み取れる全体的な評価(目標の達成度)と、自由記述に寄せられた感想の中から、学校におけるCUD普及のあり方を考えるうえで重要と思われるものをいくつかピックアップして紹介します。さらに実施したわれわれの感想を最後に示し、まとめといたします。なお、ここで紹介する先生方の感想は回答の一部であり、さらに読みたい方は、添付資料「ワークシートおよびアンケート集計結果報告」を参照ください。また、2会場を例に講座の流れがわかる写真記録(添付資料「キャラバン隊事業講座内容写真記録」)も併せてご覧ください。
目標の達成度
本事業の目的である「ワークショップをとおして色覚の多様性について理解を深め、カラーユニバーサルデザインの必要性を認識」していただくことは、ほぼ達成できたと考えます。実際に、講座終了後に行ったアンケートの自由記述欄に「自分とは異なる色覚の見え方が体験できてとても勉強になった」、「色弱の子どもへの配慮をしたい」や「チョークの色づかいを見直したい」といった声がひじょうに多く見られました。そして受講者全体の72%が、本講座は「ひじょうに有益」であったと回答、「まあまあ有益」を含めると93%です。この結果からも、参加された先生方に学校現場でCUDを考えていく何らかのヒントを提供できたと思います(添付資料「ワークシートおよびアンケート集計結果報告」、11頁参照)。
もうひとつの目標である「カラーユニバーサルデザインの普及促進」の達成にはさらに時間を要することも浮彫りになりました。同アンケート問3「あなたは色覚について関心がありますか」に対し、「色弱や色覚(色の見え方)の多様性について、これまであまり意識したことがなかった」と回答したひとは49人、実に全体の64%に相当します。色弱の児童・生徒に接して関心はあったが「積極的に情報を得ようとはしていなかった」との記述回答がありました(添付資料「ワークシートおよびアンケート集計結果報告」、10頁参照)。ひとりの声ですが、これはおそらく学校現場で色覚問題に触れた先生方の声を代弁するものではないでしょうか。学校におけるCUD普及が道半ばであることの要因を探るヒントにしたいと思います。
参加者の感想
- 色弱の有無に関わらず、色の種別選択を意識することが大切だと思います。
- 思いやりをもって人と関われるように、各教科の中で生徒が学習することや、教員も研修を積むことが大切だと思う。また親自身も子育てをする中で、地域の保健活動の場で学ぶことが必要であると思う。
- 見にくい時はすぐに申し出ることのできる雰囲気づくり。
- 色弱の児童についての情報を引き継いでいくこと。今回のような研修を行って知見を深める。
- 図工の時に、色の組み合わせをおしつけていたように感じた。可能性を考えて見守っていきたい。
- まずは学校でこのような研修会を行うことが大切。
- まずは私たちがこのような状況があるということを知ることから始まる。私たちは常に最新の情報を取り入れていかなくてはいけない。時代おくれになるということを改めて感じた。
- 子どもたちにバリアントールを体験してほしいなと思いました。私たちが当たり前に認識していた色が全く見えない(判別できない)ことに驚きましたが、日頃の色選びに今後役立てていこうと思いました。
- 理科を指導しているので、リトマス紙等色の反応のある学習や色の学習など配慮しきれない面を感じた。言葉、知識として指導するのも難しいと思った。
- 栄養教諭の私は、ピーマン等野菜の見分けや肉の焼き具合等にも色の見え方が異なることを知り驚いた。食べ物カードをよく使用しているが、もしかしたら見えにくい子もいたかもしれない。教えていただいたことを生かし授業づくりや、たより、掲示物づくりをしていきたいと思いました。
- 実際に色弱者の方の生の声を聞け、意識が高まりました。実体験をたくさんお話ししていただき、ありがとうございました。
- バリアントールで体験できたことは大変有意義でした。今後のさまざまな提示の仕方にも気を配りたい。将来の職業選択において色弱の児童はこまることもあると聞く。児童においてどのような配慮が必要かも学ぶ大切さを感じた。
- 図工や美術での色の学習で、色弱の子どもにどのように指導、支援していったらよいか知りたい。
- このようなことは私たちもとにかく情報を仕入れていかないといけないと思った。さらにこれを私たちから他の先生たちにも伝えていかなければいけないと思った。とにかく最新の情報を仕入れて、それに対応することが大切だと本当に感じた。
実施者の感想
ここに挙げる実施者の感想は、障害福祉課に提出した事業実施報告書からの抜粋である(添付資料「事業実施報告」参照)。
- 児童・生徒自身や保護者からの配慮要請がなければ、教師からそれに気づくことは難しい。だからこそ色覚の多様性を理解し、日常的に生徒を観察する必要がある。講座を通してそのことが伝えられてよかった。
- 色弱の当事者自らが見え方の特徴や日常生活で不便を感じること等を説明すると、先生方の反応がよかった。通常シミュレーション画像を示すだけだが、そこに当事者の視点が加わることで、より説得力をもつのだろう。色覚タイプの違いやそれぞれの見え方の特徴、違いが生ずる原理等を理解することは難しい。時に主観を混じえた当事者の語りは、色覚の多様性を理解するうえで大きな力になることを改めて感じた。
- 学校現場におけるカラーユニバーサルデザインとしてまず語られるのはチョークの色づかいである。いずれの回も、参加者に普段の板書を再現してもらい、それを皆で色弱模擬フィルタを装着してチェックするワークを行った。先生方自身がピンク系の従来の赤、青と緑のチョークの見えにくさを実感することはとても重要で、その体験が今後の指導に生かされることを期待したい。今日の学校現場において「チョークは白と黄色を使用する、赤は使用しない」との考えはある程度浸透しているように見える。しかしどこか無批判に捉えられているところもあり、そこをもっと丁寧にクリティカルな視点でチョークの色について考える場があってもよいと感じた。今回はeyeチョーク等CUD認証を得たチョークの実演・紹介の時間が取れなかったため、サンプルを渡して生徒の反応を教えてほしいとお願いしてきた。その結果を踏まえて検討していきたい。
資料ダウンロード
以上 (2020年3月15日作成)