CUD勉強会は、各界の専門家に話をしていただき、そこからCUDや色覚多様性について皆で理解を深め合う催しです。16回目となる今回は映像クリエイターの吉田達朗氏をお招きし、33人の参加がありました。
概要
イベント名称 | 第16回CUD勉強会「『MY COLORS_私は色弱』―制作者からのメッセージ―」 |
実施日時 | 2024年8月17日(土) 14:00~16:00 |
開催方法 | オンライン(ZOOM) |
内容(プログラム) |
|
講師 | 吉田達朗(よしだ たつろう)氏 (映像クリエイター) |
参加者 | 33名(事前申込者51名) |
主催 | NPO人にやさしい色づかいをすすめる会 |
勉強会の内容
勉強会はオンラインで実施。事前申込は51人、参加者は33人でした。勉強会は予定通り2時間の二部構成で、前半は吉田氏による1時間強のレクチャー、5分の休憩を挟み、後半は、吉田氏から色弱当事者(当会会員である井原直将さん)へのインタビューの様子をふたりが振り返るトーク、そして事前に寄せられた質問への回答、勉強会レクチャーへの質疑応答、最後に事務連絡で終了となりました。通信トラブルも無く運営面では無事に終了しました。なお吉田氏の1時間にわたるレクチャーの動画は、当会会員にのみ限定公開されています。
以下は吉田氏のノミネート作品の紹介と、事前質問と質疑応答で出た当事者からの興味深い意見についての報告です。
「MY COLORS_私は色弱」とは
吉田達朗氏は、当会会員の色弱当事者(井原直将さん)へのインタビューをもとに、色弱の女性を描いた約2分間の映像作品「MY COLORS_私は色弱」を制作されました(下記URLより閲覧可能)。Nikonが主催する縦型動画コンテストVertical Movie Award 2024への応募をきっかけに、吉田氏は色覚多様性やCUDについて一から学んだそうで、当会との繋がりも色弱当事者への取材依頼が始まりでした。吉田氏の作品はコンテストで高い評価を得て、約150点の応募作品のうち、ノミネート作品20点の1つに選ばれ、他のノミネート作品とともに現在YouTubeで一般公開されています。勉強会では、吉田氏のレクチャー冒頭で作品を皆で鑑賞しました。
- Vertical Movie Award 2024については以下を参照
https://www.nikon-image.com/news/info/2024/0226.html (外部サイトに移動します)
https://vook.vc/p/nikon-vertical-movie-award/2024 (外部サイトに移動します) - 吉田氏の動画は以下から閲覧可能です
https://youtu.be/xXIpcLB6L4s(YouTubeに移動します)
事前質問と質疑応答で出た意見の報告等
「私は、たくさんの目と繋がって生きている 十分、彩り豊かだよ」
これは作品中で色弱当事者の女性が語る言葉ですが、吉田氏が映像作品に込めたメッセージと言えるでしょう。色弱という色覚特性ゆえにリンゴの熟れ具合がよくわからなかったり、チークを濃くしてしまったりと、いろいろ困ることはあるけれど、身近な人が助けてくれる。そしてみんなのようにカラフルに見えないし、色に感動することもないけれど、私は自分の色覚を前向きに捉えて生きている――映像終盤の光と音が響き合う印象的なシーンで、このメッセージがダイレクトに伝えられます。ノミネート作品として多くの目に触れるため、この作品をきっかけに色覚多様性に関心をもつひとも出てくると期待されます。
しかし勉強会前に寄せられた意見のなかに、こうした色弱の描き方に対し、主に当事者から次のような意見が寄せられました。
「助け舟がいて解決できるからいいわけではなく、社会の理解が最終目標点だと思う」
「色弱だから色に感動しないというのはちょっと違って、一般色覚の人たちに否定され続けて楽しめなくなったという問題だ」
「私はカラフルに見えている」
「色弱は圧倒的に男性が多いのに女性にしたのには違和感がある」
といった意見です。
これらの意見を丁寧に受け止めつつ吉田氏は、この作品で表現したかったのは、自身が初めて知る1人の色弱者の世界であり、色弱について学び始めた自分自身の見方、感性を通した世界だと述べています。そして色弱やCUDに対する知識と理解を深めるなかで、クリエイターとして自分自身が成長できた、それ自体も映像制作の重要な要素だと語っています。今自分がもっている視点と感性に基づいて「色弱」を映像化することに意味がある。その信念と真摯な姿勢がよく伝わってきました。
勉強会後半では、吉田氏が当会会員の井原さんに対して行ったインタビューについて、ふたりで振り返りつつ色弱のクリエイター(漫画家)としての苦労や見え方を語り合い、どういった表現が可能かを掘り下げてもらいました。吉田氏と井原さんは同世代で共にクリエイターであり初対面から意気投合、インタビューは約3時間にわたって続いたそうです。インタビュー途中、吉田氏は色弱者の見え方を理解するためiPadでシミュレーション画像を井原さんに見せ、シミュレーションの再現性等も含めて説明を聞いたことが、深い理解に繋がったようです。今後ふたりによる共同制作の話も出たところで、楽しい雰囲気のなか時間切れとなりました。
次に、質疑応答のなかで印象的だった、ある当事者の質問を紹介します。映像作品で女性が黄緑色のクレパスで少女の顔を描くシーン(図1参照)について語ったコメントです。「動画の中に出てくる似顔絵は色弱者の色づかいなのか?色弱者にはわからない」との質問がまずありました。一般色覚者にとって、この質問は衝撃をもって受け取られたと思います。質問者は、補足として次のように語っていました。
これは色弱者の色づかい(肌の色を黄緑色で塗ることがある)になっているかもしれないが、当事者にはわからない。そのことを指摘して、これでは困る、改善してほしいと言いたいのではなく、アート表現として自由に創作してもらいたい。ただ、当事者としては映像に挿入された少女の絵を見ると、それがどのような意図でそこに挿入されたのか、何色なのか、どうしても気になってしまうことを伝えたい。
たしかに一般色覚者は黄緑色の肌をした少女の絵が出てきたら、色弱者の絵として挿入されたのだと直ぐにわかりますが、当事者はそうした認識に至るにはワンクッション必要で、質問者のように「どうしても気になってしまう」ひともいます。この映像作品はあくまで一般色覚者に向けた作品であり、当事者にとってどう見えるかの視点を欠いているとの指摘でもあったのでしょう。吉田氏はその声を真摯に受け止め、大変勉強になった、まだ学び始めたばかりなので伸びしろも大きい、早い時期にこうした指摘を受けられたことはありがたく、今後に活かしたいとコメントされました。
質疑応答では、他にも当事者からの率直な声が寄せられ、多くの気づきと学びが得られる貴重な時間となりました。事前質問と回答内容については添付資料「0817CUD勉強会事前質問への回答集」を参考にしてください。
図1 吉田氏による映像作品の1シーン
アンケート結果
Googleフォームにてwebアンケートを2024/08/17~25の期間実施、17人から回答を得ました(回答率52%)。詳細は添付資料「第16回CUD勉強会アンケート集計結果」をご覧ください。
勉強会の運営については、ZOOMでのオンライン開催形式、参加申込後の対応、時間設定のいずれも「おおいに満足」と「満足」が大半でした。また勉強会の内容は有意義であったか?については、「ひじょうに有意義だった」が52.9%、「有意義だった」が35.3%で合わせて88.2%、「普通」が11.8%、「特に有意義ではなかった」と「まったく有意義ではなかった」がいずれも0%でした。概ね高い評価を得たものと思います。
その他、自由記述として多様な意見が出ていますので添付資料「第16回CUD勉強会アンケート集計結果」をご覧ください。
以上 (2024年9月15日作成)
資料ダウンロード
- 0817CUD勉強会事前質問への回答集(PDF、約240KB)
- 第16回CUD勉強会アンケート集計結果(PDF、約320KB)