名古屋駅バスターミナル全体を歩きながらバス路線図やのりば案内表示等の誘目性、視認性、可読性や明視性を観察しました。
概要
イベント名称 | 街のCUDチェックツアー001――名古屋駅バスターミナル |
実施日 | 2017年9月16日(土)13:30~15:30 |
場所 | 名古屋駅バスターミナル 〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅1丁目1-1 |
主催 | NPO人にやさしい色づかいをすすめる会 |
参加人数 | 14名 (P型/D型:5名、C型:9名) ※名古屋市交通局職員1名がオブザーバーとして参加 |
参加費 | 無料 |
内容 | 色弱者と一般色覚者が混在するグループに分かれ(P型1名、D型2名、C型4名の計7人グループとD型2名、C型5名の計7人グループの2グループ)、バスターミナル全体を歩きながらバス路線図やのりば案内表示等の誘目性、視認性、可読性や明視性を観察する(名古屋市交通局より施設利用許諾を得て実施)。 |
使用ツール |
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記録 | 参加者が個々に写真撮影し、後に必要に応じて共有する。1台のビデオカメラで参加者の様子を動画で記録し、後に編集して勉強会等で使用する。 |
イベントの趣旨
NPO 人にやさしい色づかいをすすめる会は、2017 年から「街のCUD チェックツアー」と称して、私たちが暮
らす街の公共空間をカラーユニバーサルデザイン(CUD)の視点で観察するフィールドワークを始めました。
チェックツアーのポイントは、色弱者と一般色覚者がどんな些細なことであっても、感じたことを感じたまま
に言い合うことです。そこにはCUD ばかりでなく、「すべての人にとってやさしいユニバーサルデザインへの配
慮がこんなところにある!」といった発見も含まれています。それらを記録し、ツアー後の勉強会でほんとうに
改善が必要なのは何か、それを決める基準とは何か、そしてどのように改善したらよいのか等を丁寧に議論して
いきます。そして、議論の末にどうしてもここは改善が必要となった問題に対し、改善の具体的な方法を探り、
しかるべき相手に提案していくことも視野に入れています。そのためにも、私たちはまずどのような問題がある
のかを、多くの人に知っていただくことが大切だと考えています。
私たちは「街の CUD チェックツアー」を今後も不定期ながら最低年に 1 回は開催する重要イベントと位置づ
けています。第 1 回目となった 2017 年 9 月、名古屋駅バスターミナルをチェック対象として実施しました(図
10)。名古屋駅に直結し多くの市民が利用するバスターミナルでのチェックツアーは、管理者である名古屋市交通
局の許可を得て行いました。管理課職員の方にもご参加いただく等、名古屋市交通局のご理解とご協力に対しこ
こで改めて感謝いたします。
イベントの内容報告
ここでは、参加者を対象としたアンケート結果の概要と、アンケート Q3 の自由記述回答からピックアップし
た「バスターミナルで改善が必要と感じた点」について報告します。ここで注意したいのは、今回のチェックツ
アーは正式なCUD 検証つまりNPO 法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)による検証に則ったもので
はない、ということです。参加者の大半は現在CUDO による検証基準と方法を習得中ですが、自由記述で述べら
れているのは、参加者の個人的な経験に基づく意見と要望です。この報告書では、これらの意見と要望のなかか
ら、複数人から指摘があった対象について取り上げます。改善点だけでなく、工夫を感じた点等も含めました。
寄せられた他の意見もまた興味深いので、すべての自由記述を集めた別添のアンケート結果報告(▼添付資料③)
もぜひご一読ください。
アンケート結果の概要
参加者に対するアンケート調査(▼添付資料②)では、以下5 つの問を設定し、後日メールにて回答を送ってもらった。参加者14 人のうち10 人から回答があった(回答率71.4%)。
Q1. 本日のツアーはあなたにとって役に立つ、関心がもてる内容でしたか。
Q2. ツアーの内容で特によかったと思う点は、次のうちのどれですか(複数回答可)。
Q3. バスターミナルのなかで、改善が必要だと感じた点はありましたか。できれば具体的にお書きください。
Q.4 ツアーの内容全般について、また今後の企画について、ご意見・ご質問・ご要望などを自由にお書きください。今後の参考にいたします。
Q1 では回答者全員が役立つ、関心がもてるツアーであったと回答しており、ひとまず成功と言える。
Q2 で最も多かったのは、色弱者と一緒に回ることで見え方の違いを実感できたこと(8 人)、次いで公共施設の環境改善という社会活動に参加できたこと(7 人)であった。色弱者と一般色覚者の見え方の違いを相互に理解し合うことは CUD を考えるための第一歩であり、その重要性の認識が表れたと言える。P 型と D 型では見え方に違いがあり、さらに同型でも見え方に個人差があることを知ったとの声もあり、色覚の多様性を改めて実感する体験となったことがわかる。また、その他の意見として「印刷業者、デザイナーの方と一緒に回ることで、自分には無い専門的なチェックの視点を知ることができたこと」があった。情報やモノを提供する側にいるひとの見え方を知る機会にもなっている。
Q3 には9 人が回答を寄せた。バス路線図や乗り場案内表示等を見た後の感想として、現在のバスターミナルは様々な工夫が施され全体的に見てよくできている、直ぐにも改善が必要と感じた点はなかったという意見が大半であった。次項では、自由記述のなかから5 点の対象についての気づきと改善点を報告する。
バスターミナルで改善が必要と感じた
①「市バス路線案内」(図1)
バスターミナルの 3 番および 10 番のりばの前に設置された大型の「市バス路線案内」(図 1)は、次の点で工夫されているとの意見があった。
- 隣り合った路線には、ほぼ違いが分かる色が使用されている
- 路線が交差する場所では、路線が混同しないよう工夫されている
- 系統番号が路線図の近くに書いてある
- 線の中と、路線番号表示に、色名が書かれていて分かりやすい
一方で、文字が小さく見にくいので色名の文字を大きくする、線の色と文字の色の明度にコントラストをつける、路線の違いを色だけで示すのではなく、路線そのものの形状(模様)を変える工夫があってよい等の意見もあった。
②各所にある「のりば案内」(図2 および図3)
各所にある「のりば案内」(図2)での赤色の使い方について指摘があった。図では、現在地は赤い小さな丸で示され、そこから赤い円形の吹き出しに白抜きで「現在地」と書かれている。また AED の位置もやや濃い赤色のマークで示される。これらの赤色は一般色覚者には目立つが色弱者にはわかりにくいのではないか、色弱者が赤と認識できる程度の朱赤にすべきとの意見があった。
図3 は「色のシミュレータ」によるC型、P 型とD 型の見え方をシミュレートした画像である。それらを見ると、確かに赤の吹き出しもAED マークも目立たず、すぐに見つけることはできない。しかし色弱者からは、「色弱者には赤が目立たないが、探せばわかるので重大な問題ではない。これを青や黄にするのは、C 型の人には目立たなくなるはずだから、このままで良い」との意見が出された。CUD は誰のためになされるのかと問いかけられているようで、この意見はひじょうに意義深い。
さらに「のりば案内」の表示について、降車所の向かい側(案内図の左側)の、トイレ、コインロッカー、AED やインフォメーションが集中する部分が複雑になっているので、パネルサイズをもう少し大きくし図柄の識別に適した照度を確保する工夫があればよいとの指摘もあった。特に、オストメイト対応、オムツ替えなどができるベビーベッドを備えた多目的トイレは駅構内でも稀少なため、その存在をもっと目立つように表示してもよい。AED も含めて設備を一箇所にまとめて凡例として示す工夫もほしいとの意見があった。
③「市バスのりば案内」におけるのりば番号(図4~図6)
「市バスのりば案内」(図 4)は、バスターミナルの 3 番および 10 番のりば前に設置された大型の「市バス路線案内」の右隣にある。これは3 段に分かれており、上段に市バスターミナルのりば一覧(系統、経由、行先とのりばを示した一覧表)、中段に市バスターミナルのりば案内図(のりば番号、トイレ、インフォメーション、入り口と現在地を示したバスターミナル平面図)、下段に名古屋駅周辺のりば一覧がある。上段の一覧表と中段の市バスターミナルのりば案内図(図 5)は、パネルが異なるとはいえ、同じのりば番号を示すものであり、表示形式を統一すべきとの意見があった。
一覧表では、青い地色の正方形の中に白抜きで数字が表示されており、これは各のりばに設置されている青地にのりば番号の数字を白抜きで示した看板(図 6)の配色と同一であり、視認性も高く大変分かりやすい。
一方、中段の市バスターミナルのりば案内図では、のりば番号が黒色で数字のみの状態で表示されているため、それらの数字と、上段一覧表中の青地に白抜きののりば番号とを直感的に繋げることは難しい。もちろん、これらの黒いのりば番号が、右側にある表中の「1 番のりば」「2 番のりば」等の黒色の文字に合わせていることもわかる。しかし全体として見るとき、上段の一覧表、中段左側の平面図そして中段右側の表の3 ヶ所に表されるのりば番号が同じ表示形式で統一されていれば、もっと直感的に情報を受け取ることができるのではないか。この場合、青い地色の正方形の中に白抜きで数字を示す形式が最も好ましいとの意見が、デザイナーから出された。
さらにこれに関連して、②で述べた各所にある「のりば案内」(図2 および図3)でも同様に、のりば番号の表示形式を青い地色の正方形の中に白抜きで数字を示す形式で統一するとよいとの声もあった。図2 のバスターミナル平面図では、のりば番号は白に近いごく薄い青の地に青色の数字で表示されている。もちろんこのままでもまったく問題はなく、パネル全体のデザインはすっきりして見やすいが、この部分も含め、すべてののりば番号表示を青い地色の正方形の中に白抜きで数字を示す形式で統一するならば、より直感的な分かりやすさが期待できるという意見である。
④時刻表(図7 および図8)
バス時刻表は、各のりばの時刻表(図7)と時刻表一覧(図8)の2 種類あり、いずれも土曜日の欄は水色、日曜日の欄はピンクに色分けされている。各のりばの時刻表では薄い水色と薄いピンクが使われており、色弱者にとって見分けづらい配色になっている。水色とピンクを組み合わせる場合は、黄み寄りのピンクにすると見分けやすい。また一覧表の水色とピンクは、各のりばの時刻表のものに比べて、かなり濃いため違和感があるとの意見もあった。
⑤降車所に面したトイレの入り口を示すマーク(図9)
多目的、男性用、女性用トイレの入り口を示すマークは、それぞれ緑、紺、赤の暗いトーンの地色に白抜きの図柄で統一されており、白い壁面を背景にすると誘目性が高く、デザインとしては優れていると感じられる。しかし、少し離れた場所から見ると、すべて同じ色に見えるとの声も実際に色弱者から出された。それは一般色覚者にとっても同様である。とはいえトイレの所在がよくわかり、近づけば明瞭な図柄で区別できるので問題はないとの意見があった。
まとめ
チェックツアー参加者全員の満足度はひじょうに高く、チェック対象への評価(意見)も具体的に示せたので、ひとまず「街のCUD チェックツアー001――名古屋駅バスターミナル」は成功した、意味のある成果を出せたと考えます。しかし、チェック方法、チェック対象の選択、ツアーの所要時間設定、グループ内での役割分担等、運営面でいくつもの課題か浮上しました。
たとえばチェック方法について、アンケートQ4 の自由記述回答に次のような意見がありました。P 型とD 型の色弱者が「見分けられます」と言っても、それは一般色覚者と比べてどの程度の見分けやすさなのか、また見分けやすさを示す1 から6 までの評価数値(CUDO によるCUD 検証 6 段階色差評価による)のどれに該当するかを判断してもらうところまでいかなかった、というものです。色弱者からも同様に、評価基準をしっかりもって色差の評価を行いたいとの意見がありました。このように、チェックの精度を高めていくことは、このツアーにとって今後の大きな課題であると言えます。
さらに今回見えてきたのは、現地でのチェックは予想以上に複雑であるということ。個々の対象をチェックするだけでなく、バスターミナル全体として見た場合の分かりやすさ、表示の統一感、また照明や素材による見え方の違い、人の動き等、空間全体を総合的に捉えねばなりません。そのために色覚や CUD の専門知識だけでなく、印刷・塗装、照明、建築設計や施設規制等に関する専門知識をもった人の参加が望まれます。
「街の CUD チェックツアー」を意味ある活動へと育てていくために、チェックの精度向上、多様な領域の専門家の協力獲得、そしてより多くの色弱者の参加を目指していきたいと思います。
報告書ダウンロード
イベントの報告書はPDFで提供しております。(全部で5ファイルあります。)ダウンロードしてご覧ください。
- 資料1-街のCUDチェックツアー001報告書(約420kb)
- 資料2-街のCUDチェックツアー001図表(約13mb)
- 資料3-添付資料1(約1.6mb)
- 資料4-添付資料2(約460kb)
- 資料5-添付資料3(約520kb)
第2回街のCUDチェックツアー
第2回は、2018年10月13日(土)に開催します。名古屋市科学館を対象にいたします。
(追記)開催報告はこちらをごらんください。